はじめに「売上は好調なのに、なぜかお金が足りない…」そんな経験はありませんか?事業を運営するうえで、単に売上を伸ばすだけでは成功とは言えません。大切なのは、収入と支出のバランスを把握し、安定した資金繰りを実現すること。そのために必要なのが「収支計画」です。収支計画を適切に立てることで、資金ショートを防ぎ、事業を安定させる未来の投資計画を立てやすくする銀行や投資家からの信頼を得やすくするといったメリットがあります。本記事では、収支計画の基本から、作成方法、活用のポイントまでわかりやすく解説します。これから事業を始める方や、資金管理を見直したい方はぜひ参考に1. 収支計画とは?収支計画の基本収支計画とは、事業の収入と支出を整理し、将来の資金の流れを予測する計画のことです。会社経営では、売上が伸びているにもかかわらず資金が足りなくなるケースが多々あります。その原因の一つが、キャッシュフローの管理不足です。例えば、売上は発生していても、入金が数か月後になると、その間の家賃や人件費などの支払いが滞る可能性があります。こうした資金ショートを防ぐために、収支計画を立てて、一定期間ごとの収入と支出を予測することが重要です。収支計画をしっかりと立てることで、事業の資金繰りをスムーズにする余剰資金の活用や投資計画を立てやすくする予測される資金不足に事前に対応できるといったメリットが得られます。収支計画書と予算、報告書の違い収支計画書は、事業の将来の資金の流れを予測し、計画的に資金管理を行うための書類です。これに似たものとして「予算」や「報告書」がありますが、それぞれ役割が異なります。項目目的内容収支計画書未来の資金の流れを計画する売上、経費、利益、資金繰りの予測をまとめる予算目標の設定事業年度ごとの売上や経費の目標を設定し、計画的に支出を管理する報告書過去の実績を記録・分析する実際の収入と支出の実績をまとめ、計画との差異を分析する例えば、カフェを開業したとします。予算:「1か月の売上目標は100万円、原価率は30%、人件費は20%以内に収める」収支計画書:「1月は50万円、2月は70万円、3月は100万円の売上予測で、2月までは赤字になるが3月以降黒字化する」報告書:「1月の売上実績は45万円、計画より5万円少なかった。要因として集客不足が挙げられる」このように、予算は目標、収支計画は未来の見通し、報告書は実績の振り返りという違いがあります。収支計画をしっかりと作成することで、事業の資金管理を適切に行い、安定した経営を目指すことができます。次の章では、収支計画を作る目的について詳しく解説していきます。2. 収支計画を作る目的収支計画を作る目的は、単にお金の流れを可視化することだけではありません。事業を安定して運営し、成長させるために重要な役割を果たします。ここでは、収支計画を作成する主な目的を3つ紹介します。1. 事業のお金の流れを把握する事業の資金管理では、「どのタイミングでどのくらいのお金が入るのか、出ていくのか」を正確に把握することが重要です。特に、BtoBビジネスでは売掛金の入金が遅れるケースもあり、収入が発生しても手元資金が不足するリスクがあります。例えば、3月に100万円の売上を計上しても、入金が5月になる場合、4月の支払いに必要な資金が不足する可能性があります。収支計画を作ることで、こうした資金の動きを事前に把握し、必要な対策を講じることができます。2. 資金繰りを安定させる収支計画を立てることで、資金ショートを防ぎ、安定した資金繰りを確保することができます。特に、以下のような場面では資金が不足しやすくなります。新規事業の立ち上げ時(設備投資・広告費・人件費などの先行投資が必要)売上が季節変動する事業(観光業・アパレル業界など)大口取引の支払いサイトが長い場合例えば、アパレルショップでは、冬物商品を販売するために秋の時点で大量の仕入れを行います。しかし、実際の売上は12月以降に集中するため、仕入れ資金をどのように確保するかを計画する必要があります。収支計画を作ることで、融資のタイミングを適切に判断したり、支出を調整したりすることが可能になります。3. 金融機関や投資家への説明資料として活用する事業の成長に伴い、銀行からの融資や投資家からの資金調達を検討する場面も出てきます。その際、収支計画書は非常に重要な資料になります。金融機関や投資家は、資金提供の判断をする際に「この事業は将来、安定的に収益を上げられるか」「返済能力があるか」を厳しくチェックします。収支計画がしっかりと作られていると、資金の流れや事業の収益性を明確に説明でき、信用度が向上します。例えば、スタートアップが投資家にプレゼンを行う場合、事業が3年後に黒字化する見込みそのために初年度は資金調達が必要具体的な売上計画と成長戦略といったポイントを収支計画をもとに説明することで、投資判断をスムーズに進めることができます。収支計画は、事業の安定運営や成長に不可欠なツールです。次の章では、収支計画書に記載すべき主な項目について詳しく解説していきます。3. 収支計画書の主な項目収支計画書を作成する際には、事業の資金の流れを正しく把握するために、いくつかの重要な項目を押さえておく必要があります。ここでは、主な4つの項目について詳しく解説します。1. 売上(収入)事業の売上や収益を示す項目です。売上は、商品やサービスの販売による収入だけでなく、以下のような収入源も含まれます。商品・サービスの販売収益サブスクリプション(定額課金)収益受託開発やコンサルティング収益補助金や助成金投資による資金調達例えば、オンラインスクールを運営する場合、受講料(単発・月額課金)や企業向け研修の受託収益などが売上に含まれます。2. 経費(固定費・変動費)事業を運営するためには、さまざまな経費がかかります。経費には大きく分けて固定費と変動費があります。固定費(毎月発生する費用)オフィスや店舗の家賃従業員の給与水道光熱費広告費(継続的な費用)システム利用料(SaaSなど)変動費(売上に応じて変動する費用)仕入れ原価(商品販売の場合)広告費(キャンペーンなど)配送費(ECサイトなど)例えば、カフェ経営では「家賃」は固定費ですが、「コーヒー豆の仕入れ」は売上に応じて変動するため変動費に分類されます。3. 借入金と返済額銀行融資や投資によって調達した資金と、その返済計画をまとめます。借入額(銀行ローン、社債、投資など)返済額(月ごと、年ごとの計画)利息支払い額例えば、設備投資のために500万円の融資を受けた場合、毎月の返済額と利息を考慮し、資金繰りに影響が出ないよう計画を立てます。4. 利益とキャッシュフロー売上と経費を差し引いた利益を確認し、事業の収益性を測ります。また、実際に手元に残るお金(キャッシュフロー)を正しく管理することも重要です。利益(売上−経費):事業の収益性を示すキャッシュフロー:実際に手元に残る現金例えば、売上100万円・経費70万円の場合、利益は30万円になります。しかし、売掛金の回収が遅れると、キャッシュフローがマイナスになり資金不足に陥る可能性があります。このように、収支計画書には事業の資金の流れを可視化し、適切な経営判断を行うための重要な情報が含まれます。次の章では、収支計画を作成する具体的な手順について解説していきます。4. 収支計画の作り方(ステップ別)収支計画を作成する際には、明確なステップを踏んで進めることが重要です。ここでは、5つのステップに分けて解説します。1. 売上の予測まずは、事業の売上を予測します。売上の見積もりには、過去の実績データや市場調査を活用します。過去の売上データの分析(前年・前月の売上を参考にする)市場規模や競合分析をもとに、現実的な成長率を設定季節性やトレンドを考慮する(例:夏はアイスクリームの売上が増加)例えば、カフェを経営している場合、1日の平均来客数×客単価×営業日数を計算し、月ごとの売上を見積もります。2. 経費を洗い出す売上予測の次に、事業にかかる経費を明確にします。経費には、固定費と変動費があり、それぞれ正しく分類することが重要です。固定費(毎月発生する費用)家賃・オフィス維持費人件費水道光熱費広告費(固定契約のもの)サブスクリプション型のサービス利用料変動費(売上に応じて変動する費用)仕入れ原価(販売商品や原材料)広告宣伝費(キャンペーン費用)物流・配送費例えば、ECサイトを運営している場合、商品の仕入れ費用は売上に応じて変動するため、変動費に分類されます。3. 借入金や返済計画を考える事業運営には、銀行からの融資や投資家からの資金調達が必要な場合があります。収支計画には、借入金の額と返済スケジュールを明記し、毎月の返済額を考慮してキャッシュフローを管理します。どこから資金を調達するか(銀行融資、クラウドファンディング、エンジェル投資家など)借入金の返済スケジュール(月ごと、年ごとの計画)利息の負担額を計算し、事業利益に影響を与えないか確認例えば、1000万円の設備投資を行うために銀行から5年間の融資を受ける場合、月々の返済額と利息を見積もり、収支計画に組み込みます。4. 損益分岐点を計算する損益分岐点(Break-even Point)は、事業が黒字になるために必要な売上高を示します。損益分岐点を計算することで、最低限必要な売上の目標を設定できます。損益分岐点の計算式損益分岐点を求める基本的な計算式は以下の通りです。損益分岐点売上高 🟰 固定費 ➗(1➖変動費率)固定費:売上に関係なく一定額発生する費用(家賃、人件費など)変動費率:売上高に対する変動費の割合(仕入れ原価、販売手数料など)計算例例えば、あるカフェの経営を考えてみましょう。固定費(月間):50万円(家賃、人件費、水道光熱費など)変動費率:30%(売上の30%がコーヒー豆や食材の仕入れなどにかかる)この場合の損益分岐点売上高は、50万 ➗(1➖0.3)🟰 71.4万つまり、毎月71.4万円以上の売上を確保しないと、利益が出ないということになります。5. 予測をもとに計画を作成する最後に、これまでの予測をもとに、収支計画書を作成します。月ごとの収支計画を作成する(売上・支出・キャッシュフロー)計画と実績を比較する仕組みを導入する(毎月見直しを行う)資金が不足するタイミングを把握し、対策を立てる例えば、事業計画を立てる際に「3か月ごとに収支計画を見直し、改善点を分析する」仕組みを作ることで、計画と実績のズレを早めに修正できます。以上の5つのステップを踏むことで、より現実的で実行可能な収支計画を作成することができます。次の章では、収支計画を立てる際のポイントについて詳しく解説します。5. 収支計画を立てる際のポイント収支計画を効果的に運用するためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。ここでは、特に注意すべき4つのポイントについて解説します。1. 売上見込みは現実的に設定する過大な売上予測は、資金繰りの悪化につながるリスクがあります。市場調査や過去の売上データをもとに、現実的な売上予測を立てることが大切です。例えば、新規オープンするカフェで「1日100人の来客」と見積もったとしても、実際には30〜50人程度になることも考えられます。こうしたズレを最小限に抑えるために、類似業種のデータを参考にし、より確実性のある計画を作ることが重要です。2. 固定費と変動費を正しく分類する経費を適切に分類することで、事業のコスト構造を明確にし、コスト削減のポイントを見つけやすくなります。固定費(毎月発生する費用)家賃人件費水道光熱費サブスクリプション費用(クラウドサービスなど)変動費(売上に応じて変動する費用)仕入れ原価広告費(キャンペーンごとに変動)配送コスト(ECサイトなど)例えば、飲食店では「テナント賃料」は固定費ですが、「食材の仕入れ」は変動費に分類されます。この違いを明確にすることで、事業の資金計画がより精緻になります。3. 季節変動や繁忙期・閑散期を考慮する多くのビジネスでは、年間を通じて売上に波があります。特に、季節性のある事業では、繁忙期と閑散期の資金管理が重要になります。例えば、アパレル業界では、春・秋の新作シーズンに売上が集中し、夏・冬に売上が落ちる傾向があります。観光業では、GWや夏休み期間に売上が伸び、オフシーズンには売上が減少します。こうした季節変動を考慮して収支計画を立てることで、資金不足に陥らずに安定した運営が可能になります。4. リスクや想定外の出費も加味する事業を運営するうえで、予期しない出費が発生することは避けられません。設備の故障、物価の高騰、急な人件費の増加など、さまざまなリスクを想定し、予備資金を確保しておくことが大切です。例えば、飲食店で冷蔵庫が突然故障した場合、新品購入に数十万円かかる可能性があります。経済状況の変化により、原材料費が高騰し、仕入れコストが増加することがあります。こうした事態に備え、収支計画の中に「予備費」や「緊急対応資金」として一定の余裕を持たせることで、経営の安定性を高めることができます。次の章では、収支計画を活用するメリットについて詳しく解説していきます。6. 収支計画を活用するメリット収支計画は単なるお金の管理ツールではなく、事業の成長を促進し、経営の安定性を高めるために不可欠なものです。ここでは、収支計画を活用することで得られる3つの大きなメリットを紹介します。1. 事業の成長が見えやすくなる収支計画を適切に作成・活用することで、事業の成長スピードや方向性が明確になります。売上や利益の推移を可視化することで、どのタイミングで設備投資をするべきかいつ新しい人材を採用すべきかどの事業領域に資金を重点投下するべきかといった意思決定がしやすくなります。例えば、ECサイトを運営している場合、年間の売上データから「11月〜12月は繁忙期で売上が伸びるため、9月〜10月に在庫を増やしておく」という戦略を立てることができます。2. 早めの資金対策ができる収支計画があることで、資金不足が予測される時期を事前に把握し、必要な対策を講じることができます。資金が不足するタイミングを予測し、融資や資金調達の準備をする支払いが集中する月に向けてキャッシュを確保する売上が落ちる閑散期に向けたコスト削減策を講じる例えば、売掛金の回収が3ヶ月後のビジネスモデルの場合、入金前に運転資金が不足する可能性があります。収支計画を立てることで、必要なタイミングで短期融資を受けるなどの対策が可能になります。3. 事業計画や融資申請がスムーズに進む銀行融資や投資家からの資金調達を行う際には、事業の将来性や収益性を証明する資料が必要になります。収支計画がしっかりと作成されていれば、金融機関に対して事業の安定性を示し、融資審査をスムーズに通過できる投資家に対して、収益モデルと成長戦略を明確に説明できる経営陣や社内メンバーと共通認識を持ち、意思決定の精度を高める例えば、スタートアップがシリーズAの資金調達を行う際、「3年後の黒字化計画」を示すことが求められます。この際、売上・経費・利益のシミュレーションが明確になっていると、投資家の納得感を得やすくなります。次の章では、収支計画を作成する際に陥りがちな注意点や落とし穴について詳しく解説していきます。7. 収支計画の注意点と落とし穴収支計画を作成する際には、いくつかの注意すべきポイントがあります。ここでは、代表的な3つの落とし穴について解説します。1. 予測と実績のズレを放置しない収支計画は一度作成して終わりではなく、定期的に見直しを行うことが重要です。特に、計画と実際の収支にズレが生じた場合、その原因を分析し、適宜修正を加える必要があります。例えば、計画では「毎月100万円の売上」を見込んでいたのに、実際には80万円しか売上が立たなかった場合、その差額の要因を特定し、必要に応じてマーケティング戦略や価格設定を見直すことが重要です。2. 経費の見積もりを甘くしない多くの事業者が犯しがちなミスとして、経費を過小に見積もることがあります。特に、以下のような項目は実際に発生するコストが想定以上になることが多いため、慎重に見積もる必要があります。人件費(昇給や採用コスト)水道光熱費(季節変動や料金改定)設備投資(修繕・メンテナンス費用)マーケティング費用(広告単価の変動)例えば、新規開業の飲食店が「月10万円の広告予算で集客可能」と見積もったものの、実際には競合が多く、広告費を20万円に引き上げなければならなかった場合、当初の収支計画が大きく狂ってしまいます。3. キャッシュフローと利益の違いを理解する「利益が出ているのに、資金繰りが苦しい」という事態に陥ることがあります。これは、キャッシュフローと利益の違いを正しく理解していないために起こります。利益:売上から経費を差し引いた金額(売上−経費)キャッシュフロー:実際に手元にある現金の流れ例えば、売上100万円の契約を獲得しても、入金が3ヶ月後の場合、手元に現金がなくても仕入れや人件費の支払いが発生します。このような場合、資金ショートを防ぐための対応策(短期融資の活用、支払いサイトの調整など)を考える必要があります。まとめ収支計画は、事業の成功を左右する重要なツールですが、適切に運用しなければ逆効果になることもあります。予測と実績のズレを適宜修正し、経費の見積もりを現実的に行い、キャッシュフローの管理を徹底することで、より安定した経営が可能になります。今回紹介したポイントを参考に、自社の収支計画を見直し、持続的な成長を実現しましょう。