この記事の下部から、SaaSビジネスモデルのExcel形式の事業計画テンプレートをダウンロードいただけます。是非、貴社の経営管理にご活用ください。第一章【はじめに】SaaS(Software as a Service)事業を成功させるためには、緻密な事業計画と継続的な予実管理が不可欠です。SaaSは初期投資が比較的少なく始められる一方で、継続的な顧客獲得と解約率の抑制が収益の鍵を握る独特のビジネスモデルです。そのため、適切なKPI(重要業績評価指標)を設定し、それらの進捗を正確に把握することが、事業の成長を加速させる上で極めて重要になります。本記事では、SaaSの基本的な定義とその成功に不可欠な特徴を解説します。さらに、SaaSビジネスにおける主要なKPIツリーと、それぞれの計算ロジックを具体的な数式を交えて深掘りします。これにより、経営者、事業責任者、財務担当者、そしてスタートアップ起業家の皆様が、自社のSaaS事業をより深く理解し、データに基づいた意思決定を行えるようになることを目指します。記事の最後には、Zaimo.aiが提供するSaaS事業計画テンプレートのご紹介もいたしますので、ぜひご活用ください。第二章【SaaSの定義】SaaSとは、「Software as a Service」の略であり、クラウド上で提供されるソフトウェアサービスを指します。ユーザーはインターネット経由でサービスにアクセスし、月額または年額の利用料を支払うことでソフトウェアを利用します。従来のようなパッケージソフトウェアの購入やインストールは不要で、アップデートやメンテナンスもサービス提供者側が行うため、ユーザーは常に最新の環境でサービスを利用できます。このビジネスモデルは、ソフトウェアを「所有」するのではなく「利用」するという点で、買い切り型のソフトウェアとは大きく異なります。SaaSは、サブスクリプション型の収益モデルを基本とし、顧客との長期的な関係構築を通じて安定的な収益を目指します。第三章【SaaSビジネスの特徴】SaaSビジネスにおいて成功を収めるうえで不可欠な特徴SaaSビジネスが成功を収める上で不可欠な特徴は以下の4つが挙げられます。収益構造の特徴としては、初期費用(導入支援費など)と月額/年額の利用料(MRR/ARR)が主な柱となります。特にMRR/ARRが事業の生命線となり、この継続的な収益をいかに積み上げていくかがSaaSビジネスの成長を左右します。継続的な収益(Recurring Revenue): 月額または年額の利用料が主な収益源となるため、一度顧客を獲得すれば安定した継続的な収益が期待できます。これにより、キャッシュフローの予測がしやすくなり、事業計画の精度を高めることができます。高いスケーラビリティ: クラウドベースで提供されるため、新たな顧客が増加しても、インフラの拡張やサービス提供の体制を比較的容易にスケールさせることができます。物理的なソフトウェアの生産や配送が不要なため、急成長にも対応しやすい点が特徴です。顧客データに基づいた改善サイクル: サービス利用を通じて蓄積される顧客データを活用し、機能改善や新機能開発に活かすことができます。顧客の利用状況やフィードバックを分析することで、より顧客のニーズに合致したサービスを提供し、顧客満足度と継続率を高めることが可能です。低コストでの提供と利用: ユーザーは高価なソフトウェアを購入・導入する必要がなく、必要な時に必要な分だけ利用できるため、初期導入コストを抑えられます。サービス提供者側も、開発したソフトウェアを多数の顧客に提供することで、開発コストを分散させることができます。SaaSビジネスに共通する主要KPIと成長要因SaaSビジネスのモデルは多岐にわたりますが、事業の成長と健全性を測るための主要なKPI(重要業績評価指標)と、成長要因(成功に導くためのドライバー)には、多くの共通項が存在します。これらを体系的に理解することが、持続的な成長の鍵となります。SaaSビジネスの主要KPI(経営の羅針盤)SaaSの経営状況を正しく把握するための代表的なKPIを、目的別に整理します。収益の成長性を見るKPI事業がどれだけ伸びているかを測る、最も基本的な指標群です。MRR (Monthly Recurring Revenue): 月次経常収益。SaaSビジネスの収益の根幹をなす最重要指標。New MRR:新規顧客からその月に得られたMRR。事業の新規成長の勢いを示します。Expansion MRR:既存顧客のアップセル(上位プランへの移行)やクロスセル(追加機能の購入)によって増加したMRR。顧客満足度の高さとLTV向上の鍵となります。Net New MRR: (New MRR + Expansion MRR) - (Downgrade MRR + Churn MRR) で計算されるMRRの純増額。この数値がプラスである限り、事業は成長しています。Downgrade MRR: 既存顧客のダウングレード(下位プランへの移行)によるMRRの減少額。顧客の不満や価値のミスマッチを示唆する危険信号です。顧客定着と効率性を見るKPI顧客基盤の安定性と、顧客との関係性の質を示す指標群です。新規獲得社数 / アカウント数:新たに契約した顧客の数。事業の拡大ペースを示します。Churn Rate (解約率) / Churn MRR (解約MRR):顧客がサービスを解約する割合や、それによって失われるMRR。事業の成長を妨げる「穴の空いたバケツの穴の大きさ」を示します。Net Revenue Retention (NRR): 売上継続率。既存顧客からの収益が前年同月比でどれだけ増減したかを示す指標。(期首MRR + Expansion MRR - Downgrade MRR - Churn MRR) ÷ 期首MRR で計算され、100%を超えることが健全な成長の証とされます。ユニットエコノミクス:1社(1アカウント)あたりの「稼ぐ力」と「獲得コスト」を比較し、ビジネスモデルの採算性を測る指標。具体的には、 LTV ÷ CAC または LTV − CAC で表され、1顧客あたりの月間平均収益であるARPA(Average Revenue Per Account:月次平均売上)に利用期間と粗利率を掛けて顧客生涯価値である LTV(Life Time Value) を算出し、その LTVが、1社を獲得するために投下したコストであるCAC(Customer Acquisition Cost)を何倍上回るかを見ます。※LTVについての詳細な解説はこちらから成長要因(成功に導くためのドライバー)上記のKPIを改善し、事業を成功に導くための普遍的な活動は、以下の4つに集約されます。新規顧客獲得の効率化 (Acquisition):New MRRを最大化し、CACを最小化する活動です。ターゲット顧客に響くマーケティングから営業までの一連のプロセスを標準化し、再現性のある効率的な「顧客獲得エンジン」を構築することが不可欠です。顧客の成功と維持 (Retention):Churn MRRとDowngrade MRRを最小化する活動です。本質は「顧客を成功させること」に尽きます。効果的なオンボーディングで製品価値を素早く実感させ、優れたUI/UXやプロアクティブなサポートを提供することで、顧客の業務にサービスを不可欠なものとして定着させ、解約を防ぎます。既存顧客からの売上拡大 (Expansion):Expansion MRRとNRRを最大化する活動です。利益率が極めて高く、SaaS成長の「本当の宝」と言われます。顧客の成長に合わせて上位プランへ移行したくなる料金体系の設計や、利用データに基づき最適なタイミングで追加機能を提案するカスタマーサクセスの仕組み化がドライバーとなります。「Land and Expand」戦略もこの一部です。優れたユニットエコノミクスの確立 (Efficiency):上記の活動すべてを統合し、LTV/CAC比率を高めることです。これは「価値の高い顧客を、効率的に獲得・維持・成長させる」という事業全体の最適化を意味します。この比率を高めることが、持続可能な成長を実現するための究極的なドライバーとなります。これらのKPIとドライバーを常に意識し、自社の状況に合わせて改善を続けることが、SaaSビジネスを成功に導くための普遍的な原則です。これらのKPIとドライバーを常に意識し、自社の状況に合わせて改善を続けることが、SaaSビジネスを成功に導くための普遍的な原則です。第四章:【モデル別KPIと計算ロジック】SaaSの売上は、新規顧客獲得、既存顧客の継続、そして顧客単価の向上によって構成されます。以下に主要な収益モデルとKPIパターンを解説します。モデル定義主な収益単位単価水準SaaS[社数]契約企業数をベースにMRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)を計算する。契約社数×単価高SaaS[アカウント数]実際にサービスを利用するアカウント数(ユーザー数)に基づいてMRRを計算する。契約アカウント数×単価小SaaS[MRR増減分析モデル]前月末のMRRを起点に、当月の新規、拡大、縮小、解約によるMRRの増減要素をすべて反映し、当月末のMRRを算出する。MRR[N-1]+New MRR+Expansion MRR - Downgrade MRR - Churn MRR変動1. SaaS[MRR増減分析モデル]特徴:価格モデルではなく、売上(MRR)の増減要因を分析するための考え方(フレームワーク)です。なぜ売上が増えたのか(減ったのか)を詳細に把握することで、事業の健全性を精密に診断できます。計算式:MRR=前月末MRR+New MRR+Expansion MRR-Downgrade MRR-Churn MRR要素の解説:前月末MRR: スタート時点となる、前の月の月次経常収益。New MRR:新規顧客の獲得によって増えたMRR。Expansion MRR: 既存顧客がアップグレードなどで増えたMRRDowngrade MRR: 既存顧客がダウングレードなどで減ったMRR。Churn MRR: 既存顧客の解約によって失われたMRR。2. SaaS[社数]モデル特徴:契約する企業ごとに料金が発生する、シンプルで分かりやすいモデルです。1社あたりの利用人数に関わらず、月額料金は固定です。計算式:MRR=契約社数×単価(契約社数=前月末の社数+新規社数-解約社数)要素の解説:MRR: 月次経常収益。毎月決まって入ってくる売上のこと。契約社数: サービスを利用している企業の数。単価: 1社あたりの月額料金。新規獲得社数: その月に新しく契約してくれた企業の数。解約率: 契約社数のうち解約した企業の割合3. SaaS[アカウント数]モデル特徴 :サービスを利用するユーザー(アカウント)の数に応じて料金が決まるモデルです。利用者が増えるほど売上が伸びるため、「Land and Expand(まず少数で導入し、徐々に利用者を増やす)」戦略と相性が良いのが特徴です。計算式:MRR=契約アカウント数×単価(契約アカウント数=契約社数×1社あたりの平均アカウント数)要素の解説:契約アカウント数:利用されているID(アカウント)の総数。単価: 1アカウントあたりの月額料金。1社あたりの平均アカウント数: 1社が平均で何人のユーザーで利用しているかを示す数。顧客セグメントやプランに応じたビジネスモデルの最適化これまで解説した「社数モデル」「アカウント数モデル」「MRR増減分析モデル」は、SaaSビジネスの収益構造と成長を理解するための、いわば基本的なフレームワークです。しかし、事業を真にスケールさせるためには、これらのモデルを画一的に適用するのではなく、顧客セグメントに応じて戦略的に使い分けるという、より高度な視点が不可欠となります。なぜなら、あなたの顧客は決して均一ではないからです。顧客規模別、プラン別などの分類方法が存在します。顧客規模別の分類では、中小企業(SMB)、中堅企業(Mid-Market)、そして大企業(Enterprise)のように分類し、製品に求める価値、導入の意思決定プロセス、予算規模、そして利用が拡大していく道のりは全く異なるため、KPIの水準も大きく異なります。すべての顧客に同じアプローチを適用することは、各セググメントが持つ本来のポテンシャルを最大限に引き出すことを困難にします。したがって、事業計画上でも顧客セグメントやプラン別の管理が必要不可欠です。第五章【モデル別 代表的企業】SaaSビジネスモデルを採用している代表的な企業は国内外に多数存在します。モデルモデルの詳細企業例SaaS[社数]契約企業数ベースの課金モデルBill One[Sansan株式会社]、株式会社ビズリーチ「HRMOS」SaaS[アカウント数]ユーザー数(ID数)ベースの課金モデルfreee株式会社、株式会社マネーフォワード第六章【事業計画テンプレートを取得しよう】SaaS事業では、計画と実績のズレをいち早く把握し、必要に応じて改善策を打つことが成功のカギです。しかし、一から事業計画を作り上げるには時間と労力がかかるうえ、計算ロジックの構築も複雑です。Zaimo.aiが提供しているSaaS特化のExcel事業計画テンプレートを使えば、あらかじめ組み込まれたロジックを利用しながら、MRRの予測、予実の比較を簡単に管理できます。必要な数値(パラメータ)を入力するだけで自動計算が行われるため、ヒューマンエラーを大幅に削減できます。早速Zaimo.aiの事業計画テンプレートを取得してみましょう。Zaimo.aiの事業計画テンプレートの取得方法は以下の2つです。※①は簡単に、自社に適したセグメント設定やコスト項目の調整ができるのでオススメです。①Zaimo.aiのアカウントを作成し、自社のビジネスモデルになった事業計画テンプレから事業計画を作成&ダウンロードする(2週間フリートライアル付)アカウント作成は「無料ではじめる」からどうぞ。ぜひ、この機会にSaaS事業計画を効率的に構築し、予実管理の精度を高めてみてください。Zaimo.aiでのExcel事業計画の作成方法はこちらの記事をご覧くださいまた、ご利用料金などの詳細は、Zaimo.aiのサイトでご確認いただけます。②Zaimo.aiの事業計画テンプレートの、あらかじめExcel形式にされているものをダウンロードする最後に【どのモデルを選ぶかが、成長戦略のスタートライン】「SaaSビジネス」と一口に言っても、契約の単位、単価の設計方法、チャーンの影響などによって、ビジネスモデルの構造は大きく変わってきます。だからこそ、自社のモデルにフィットしたKPI設計と事業計画のロジック構築が欠かせません。Zaimo.aiでは、こうした多様なビジネスモデルに合わせて最適化されたExcel事業計画テンプレートを提供しています。テンプレートを使えば、モデルごとの収益構造やKPIロジックをすぐに反映でき、精度の高い計画とスピーディな予実管理が実現できます。どのモデルを採用するか、あるいはどうハイブリッドさせるか——それは単なる営業戦略ではなく、企業の成長の土台をどう築くかという経営上の意思決定そのものです。ビジネスの“型”を理解し、それに合った計画を立てられる企業だけが、変化の時代でも強く、しなやかに成長していけるはずです。ぜひこの機会に、自社のビジネスモデルを見直し、Zaimo.aiのテンプレートを活用して、実行可能で説得力ある事業計画をつくってみてください。次の一手を、もっと確信を持って選べるようになります。