売上高1兆2,958億円。営業利益1,190億円。2013年の上場から11年で売上高は13倍、営業利益は11倍に拡大した。オープンハウスグループは、日本の不動産業界において異例のスピードで成長を続けている。この成長を支えるのは、不動産業界の常識を覆す「製販一体」のビジネスモデルだ。土地の仕入れから住宅の建設、顧客への販売までを自社グループ内で一気通貫で行う。一般的な不動産業では、仕入れ・建設・販売を別の専門業者が担い、それぞれの段階で中間マージンが発生する。オープンハウスはこの中間マージンを排除し、都心部でも手頃な価格の戸建住宅を提供している。さらに注目すべきは、この製販一体モデルが不動産を「在庫」として回す発想で設計されている点だ。同社のオウンドメディアでは「高速回転する開発事業」という表現が使われており、土地を仕入れ、建て、売るというサイクルをスピード感を持って回すことがPLの根幹にある。本記事では、オープンハウスの管理会計を「狭小地」による仕入れ原価の構造的優位性、製販一体の中間マージン排除、営業力によるサイクルの高速化、セグメント多角化のPL設計の4つの視点から解説する。出典:https://openhouse-group.co.jp/ir/upload_file/m005-m005_07/244q_kessan.pdfhttps://www.rbayakyu.jp/rbay-kodawari/item/7856-g-2024-91. 「狭小地」で仕入れ原価を下げる ─ 大手が避ける土地で競争を回避するオープンハウスのPLの起点は「土地の仕入れ」にある。そしてこの仕入れ戦略が、同社のPL全体の構造を規定している。不動産業において、土地の仕入れ原価は売上原価の中で最大の構成要素だ。土地を安く仕入れれば粗利率が上がり、高く仕入れれば粗利率が下がる。そして土地の価格は「立地」と「面積」で決まるが、オープンハウスは面積の小ささを逆手に取った。同社が得意とするのは、都心部の狭小地や変形地だ。大手デベロッパーにとって、狭小地は事業化が難しい。建てられる住宅の規模が小さく、1件あたりの売上が限られるため、開発効率が悪い。だから大手は入札に参加しないことが多い。狭小地戦略のPLへの効果同社の公式サイトでは「都心部でも良質かつ手頃な価格の住宅を提供」と説明されている。狭小地を安く仕入れ、3階建てのコンパクトな住宅を建てることで、「東京で一戸建て」という顧客ニーズに応えている。東京23区内で一戸建てを持つというのは、一般的には年収の10倍以上の住宅ローンが必要になるほど高額だ。しかし狭小地を活用することで土地取得コストを抑え、建物も3階建てにして延床面積を確保すれば、「駅近の一戸建て」を現実的な価格帯で提供できる。顧客にとっては「マンションか一戸建てか」の二択ではなく、「手の届く一戸建て」という選択肢が生まれる。これは単なるコスト削減ではなく、市場そのものを創出する戦略だ。この戦略は、ワークマンが「高機能・低価格」のニッチ市場で競争を回避したのと構造的に近い。大手が参入しないセグメントを選ぶことで、仕入れ原価を構造的に低く保ち、PLの粗利を確保する。競争の激しい市場で戦うのではなく、競争の少ない市場を選ぶことでPLの入口(原価)を有利にするという管理会計の設計だ。参照OPENIA「高速回転する開発事業を支えるビジネス戦略とは」:https://recruit.openhouse-group.com/openia/articles/post100003/ITmedia「なぜオープンハウスの都心戸建て住宅は飛ぶように売れるのか?」:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1705/22/news031_3.html2. 「製販一体」─ 中間マージンを排除するSPA型のPLオープンハウスのPLを支えるもう1つの構造は、土地の仕入れから建設、販売までを自社グループで一気通貫で行う「製販一体」モデルだ。一般的な戸建住宅の開発・販売では、仕入れ業者が土地を取得し、建設会社が住宅を建て、仲介業者が販売するという分業体制が取られる。各段階で専門業者が介在し、それぞれのマージンが上乗せされる。オープンハウスでは、グループ内の連結子会社がそれぞれの工程を担当する。土地の仕入れはオープンハウス、建設はオープンハウス・アーキテクト、開発はオープンハウス・ディベロップメントが担い、販売も自社の営業センター(全国70店舗)が行う。分業モデル vs 製販一体モデルこの「製販一体」は、アパレル業界におけるSPA(製造小売業)と同じ発想だ。ユニクロやZARAが「企画→製造→販売」を自社で一貫管理することで中間マージンを排除したように、オープンハウスは不動産の「仕入れ→建設→販売」を自社で一貫管理している。不動産版のSPAと呼べる構造だ。ただし、不動産のSPAにはアパレルのSPAにない特有の効果がある。アパレルでは製販一体にしても、素材の仕入れ原価はグローバルな市場価格で決まるため、コスト削減の余地は限られる。不動産の場合、土地の仕入れ価格は交渉と情報の速さで大きく変わる。製販一体で仕入れを自社が直接行うことで、仲介業者を介さない分だけ情報のスピードと交渉力が上がり、仕入れ原価そのものを下げられる。つまり不動産版SPAでは、中間マージンの排除に加えて「仕入れ原価の低減」という二重の効果が得られる。志師塾の分析によれば、この製販一体モデルにより「相場よりも1,000万円も安く戸建住宅を販売することに成功した」とされている。中間マージンの排除は、販売価格の引き下げに直結し、「都心で手頃な一戸建て」という顧客価値を可能にしている。参照志師塾「オープンハウスが急成長を遂げた秘密とは?」:https://souken.shikigaku.jp/22383/不動産会社のミカタ「オープンハウスの強みとは」:https://f-mikata.jp/openhouse/3. 営業力でサイクルを回す ─ 仕入れも販売も「足」で稼ぐオープンハウスの製販一体モデルは、仕組みだけでなく営業力によって駆動されている。不動産業における「サイクルの速さ」は、仕入れから販売までの時間で決まる。土地を仕入れてから住宅を建て、販売して代金を回収するまでの期間が短ければ、資金効率が高くなり、同じ資本でより多くの物件を回すことができる。同社公式の採用ページでは、土地仕入営業について「業界屈指のスピードで購入の判断をします」「迅速な仕入れ交渉により、好立地をいち早く確保」と説明されている。オープンハウスの営業の特徴ITmediaのインタビューでは、同社の荒井氏が「とにかく運動量豊富。顧客との接触時間が多い方が、売り上げ数字が伸びることは分かっていた」と語っている。同社の執行役員の矢頭氏も急成長を「泥臭い営業のたまもの」と表現している。この営業力は、仕入れと販売の両方で機能する。仕入れ側では、他社より早く土地情報をキャッチし、迅速に購入判断を下す。販売側では、70店舗の営業センターが自社物件を直接顧客に販売する。仕入れから販売まで自社の営業が一貫して回すことで、各工程間の情報伝達ロスが少なく、サイクル全体の速度が上がる構造だ。不動産業において「サイクルが速い」ことの管理会計上の意味は大きい。土地を仕入れてから販売代金を回収するまでの期間が短ければ、同じ自己資本でより多くの物件を扱える。資金効率が上がり、成長のスピードが加速する。11年で売上13倍という成長率は、1件あたりの利益率ではなく、サイクルの回転数を増やすことで達成されたものだと考えられる。実際、FY2024の戸建関連事業の営業利益率は8.4%と、不動産業としては特別に高いわけではない。しかし回転数が多ければ、利益率が中程度でも利益の「絶対額」は大きくなる。キーエンスが「営業の生産性をデータで管理する」ことで高い利益率を実現しているのと同様に、オープンハウスは営業力を事業サイクル全体の推進力として活用している。ただしキーエンスが「データ駆動型」であるのに対し、オープンハウスは「運動量駆動型」という違いがある。参照オープンハウスグループ 土地仕入営業 採用ページ:https://recruit.openhouse-group.com/mid-career-sales/jobs/purchase/ITmedia「なぜオープンハウスの都心戸建て住宅は飛ぶように売れるのか?」:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1705/22/news031_3.html4. セグメント多角化のPL設計 ─ 戸建の先に収益不動産、アメリカ、マンションオープンハウスのもう1つの管理会計上の特徴は、戸建事業を起点にセグメントを多角化している点だ。FY2024のセグメント別業績を見ると、戸建事業だけに依存しないPL構造が見える。セグメント別業績(FY2024)注目すべきは、セグメントごとに利益率のプロファイルが異なる点だ。プレサンスコーポレーション(関西圏マンション)の営業利益率15.2%は戸建の8.4%の約2倍だ。戸建事業は「薄利×大量回転」のモデルであるのに対し、マンション事業はより利益率の高い構造を持っている。この多角化は、PLの安定性にも寄与している。FY2024では戸建関連事業の営業利益が▲21.4%と減益だったが、その他(アメリカ不動産等)が+32.1%と大幅増益で補い、連結の純利益は過去最高を達成した。セグメント間で業績の波が異なることで、連結PLの変動が平準化されている。さらに、セグメントの多角化には成長の「天井」を引き上げる効果もある。戸建事業だけでは、狭小地の供給量や営業人員の限界によって成長に天井が見えてくる。しかしマンション、収益不動産、海外と事業領域を広げることで、戸建で確立した「製販一体×営業力」のモデルを別の市場に横展開できる。任天堂がゲーム機で培ったIPを映画やテーマパークに展開するのと同様に、オープンハウスは戸建で培った不動産開発の「型」をマンションや海外に展開している。同社は決算説明資料で「事業分野の拡大を図りつつ、創業の原点である『お客様が何を求めているか』を追求していきます」と述べている。戸建で確立した「製販一体×営業力」のモデルを、マンション、収益不動産、海外へと横展開する構造だ。参照オープンハウスグループ FY2024決算説明資料:https://openhouse-group.co.jp/ir/upload_file/m005-m005_07/244q_kessan.pdfR.E.port「オープンハウスG 2024年9月期 増収 営業・経常利益減」:https://www.rbayakyu.jp/rbay-kodawari/item/7856-g-2024-9まとめ ─ 「仕入れて、建てて、売る」を回す管理会計管理会計とは、事業の「サイクル」をどう設計するかの技術でもある。オープンハウスのPLは、「狭小地を安く仕入れる→中間マージンを排除して建てる→自社営業で素早く売る」というサイクルの設計で成り立っている。狭小地で仕入れ原価を下げ、製販一体で中間マージンを排除し、営業力でサイクルの速度を上げる。各工程が連動することで、都心部でも手頃な価格の戸建住宅を提供しながら利益を確保する構造だ。ZARAが「デザイン→生産→販売」を2週間で回すSPAであるように、オープンハウスは「仕入れ→建設→販売」を一気通貫で回す不動産版のSPAだと考えられる。業界は異なっても、「サイクル全体を自社で管理し、中間マージンを排除し、速く回す」というPLの設計思想は共通している。11年で売上13倍という成長は、このサイクルの回転数を増やし続けた結果だ。免責事項本記事は、株式会社オープンハウスグループの決算短信、決算説明資料、公式WEBサイト、公開済み報道記事等の公開情報を基に、同社の経営管理の考え方を整理・考察したものです。記載内容は一般的な情報提供および学習の補助を目的としており、株式会社オープンハウスグループまたはその関連会社による公式な見解・手続・社内文書を示すものではありません。正確性・完全性・最新性について保証するものではなく、本記事の情報に基づく意思決定・行動によって生じたいかなる損害についても責任を負いません。