売上高1,160億円。営業利益426億円。営業利益率36.7%。ベイカレント・コンサルティングのFY2025(2025年2月期)は、売上・利益ともに過去最高を更新した。この36.7%という営業利益率は、一般的な製造業やサービス業と比較すれば圧倒的に高い。しかしベイカレントのPLで注目すべきなのは利益率の高さだけではなく、PLの構成要素が極めてシンプルであるという点だ。工場がない。在庫がない。不動産もない。コンサルティング業のPLは、突き詰めれば「コンサルタントの人数 × 稼働率 × 単価」という3つの変数だけで説明できる。ベイカレントはこの3変数を、「ワンプール制」と「営業・コンサル分離」という2つの仕組みで最適化している。本記事では、ベイカレントの管理会計をPLの3変数の構造、ワンプール制による稼働率の最大化、営業とコンサルの分離によるPLドライバーの分業、採用=成長というスケールモデルの4つの視点から解説する。出典:https://consul.global/news/news32452/https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC152DO0V11C25A0000000/1. PLの公式:人数 × 稼働率 × 単価 ─ 「人」だけで構成されるPLこれまで本シリーズで取り上げてきた企業は、すべて「モノ」がPLの中心にあった。ZARAは服、オープンハウスは不動産、任天堂はゲーム機とソフト。いずれも物理的な商品を仕入れ、製造し、販売することで売上が発生する。ベイカレントのPLには「モノ」が一切ない。コンサルタントがクライアント企業に対してサービスを提供し、その対価を受け取る。売上の源泉は「人」だけだ。コンサルティング業のPLの公式FY2025の数字で逆算すると、コンサルタント1人あたりの年間売上は約2,426万円、月間では約202万円だ。この「1人あたり売上」は、稼働率と単価の掛け算で決まる。このPLの構造は、製造業とは根本的に異なる。製造業では「原材料費」「製造コスト」「物流費」「在庫管理費」など多数のコスト変数がPLに影響する。コンサルティング業の主なコストは「人件費」のみだ。売上も人件費も、同じ「人」に紐づいている。売上高に対する原価の大部分がコンサルタントの給与であり、それ以外の原価(オフィス賃料、管理部門の人件費等)は相対的に小さい。だからこそ営業利益率36.7%という高い水準が実現できる。この「PLがシンプルである」ということ自体に、管理会計上の大きな意味がある。PLの変数が少なければ、何を改善すれば利益が増えるかが明確になる。製造業のPLでは、原材料費を下げるべきか、歩留まりを改善すべきか、物流を効率化すべきか、選択肢が多く優先順位が見えにくい。コンサルティング業では「人を増やすか」「稼働率を上げるか」「単価を上げるか」の3択しかない。経営判断がシンプルになり、KPIの設定と追跡も容易になる。ベイカレントの管理会計は、この「人数×稼働率×単価」の3変数をいかに最適化するかに集約される。そしてそれを実現する仕組みが「ワンプール制」と「営業・コンサル分離」だ。参照consul.global「ベイカレント 2025年2月期決算発表」:https://consul.global/news/news32452/日経「ベイカレント、3〜8月最高益」:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC152DO0V11C25A0000000/2. ワンプール制 ─ 「稼働率」を最大化する組織設計PLの3変数のうち、稼働率を最大化するのがベイカレントの「ワンプール制」だ。一般的なコンサルティングファームでは、コンサルタントは業界別(金融、製造、公共等)やサービス別(戦略、IT、業務改革等)の部門に所属する。案件が発生すると、該当する部門からコンサルタントがアサインされる。この構造では、ある部門に案件が集中している一方で、別の部門では手が空いているという「偏り」が構造的に生じる。ベイカレントはこの業界別・サービス別の部門を設けず、全コンサルタントを1つのプールに所属させる。案件に応じて、会社全体から最適な人材をアサインする。部門制 vs ワンプール制のPLへの影響ダイヤモンドの報道によれば、「コンサルタントを特定の業界やサービスなどの担当に張り付けず、さまざまなプロジェクトに参加させる仕組みであるワンプール制」により、「コンサルタントの流動性を高めて、高稼働率を実現できる」。コンサルティング業において「稼働率」はPLの生命線だ。コンサルタントが案件に従事していない時間は、給与というコストだけが発生し、売上はゼロだ。稼働率が1%下がれば、数千人規模のファームではその影響が数億円単位でPLに響く。ワンプール制は、この「空き時間」を全社レベルで最小化する仕組みだ。ただし、ワンプール制にはトレードオフもある。部門制であれば、特定業界に深い知見を持つコンサルタントが育ちやすい。ワンプール制では幅広い経験は得られるが、「この業界のことならこの人に聞けば間違いない」という深い専門性が育ちにくい。この専門性の深さと稼働率の高さのトレードオフを、ベイカレントは「稼働率の最大化」の側に振り切っている。参照ダイヤモンド「ベイカレントの最強ビジネスモデルに異変!」:https://diamond.jp/articles/-/366179ASSIGNメディア「ベイカレントが導入するワンプール制とは」:https://assign-inc.com/media/2023/09/15/consulting-column-one-pool/3. 営業とコンサルの分離 ─ PLのドライバーを構造的に分業するベイカレントのもう1つの特徴は、営業機能とコンサルティング機能を組織的に分離している点だ。一般的なコンサルティングファーム、特にBIG4や戦略系ファームでは、パートナーやシニアマネージャーが「営業」と「デリバリー(コンサル業務)」の両方を担う。クライアントとの関係構築、案件の提案、プロジェクトの実行まで、上位職のコンサルタントが一貫して担当するのが通例だ。ベイカレントでは、「プロデュース部」(通称「プロ部」)と呼ばれる営業専属部隊が案件の獲得を担い、コンサルタントはデリバリーに集中する。一般ファーム vs ベイカレントの役割分担ダイヤモンドの報道では「営業部隊が企業からプロジェクトを受注し、社内の人員へ振り分けて発注するような構造」と説明されている。この分離構造は、PLの3変数のうち「人数」と「稼働率」の両方に効く。第一に、コンサルタントが営業に時間を取られないため、デリバリーに使える時間が増え、稼働率が上がる。一般ファームではパートナーやシニアマネージャーが営業活動にかなりの時間を割くが、ベイカレントのコンサルタントはその分をクライアント業務に充てられる。第二に、営業専属部隊が常に新規案件を開拓し続けるため、案件のパイプラインが途切れにくい。コンサルタントがプロジェクトを終えた直後に次の案件が待っている状態を作りやすくなる。この2つの効果は、PLの「稼働率」を押し上げると同時に、「人数」の効率的な活用にもつながる。ワンプール制が「どの案件にも人を出せる」という柔軟性を生み、営業・コンサル分離が「常に案件がある」状態を維持する。この2つの仕組みが噛み合うことで、コンサルタント1人あたりの売上が最大化される。オープンハウスが「土地の仕入れ営業」と「顧客への販売営業」を分けていたように、ベイカレントも「案件の獲得(営業)」と「案件の実行(デリバリー)」を分離している。バリューチェーンの各工程を専門化することでサイクル全体の効率を上げるという発想は、業界が異なっても共通している。参照ダイヤモンド「ベイカレントの最強ビジネスモデルに異変!」:https://diamond.jp/articles/-/366179ダイヤモンド「全コンサルタントが同じ部門!ベイカレントが『ワンプール制』を採る理由」:https://diamond.jp/articles/-/2636894. 成長=採用 ─ 人数を増やせばPLが伸びるPLが「人数×稼働率×単価」で構成されるということは、成長のドライバーも明確になるということだ。稼働率はワンプール制で高水準を維持し、単価はコンサルタントのスキル向上と市場環境で緩やかに上昇する。この2変数が安定しているならば、売上を大きく伸ばす最も確実な方法は「人数を増やす」ことだ。FY2025末のコンサルタント数は4,784人。FY2026の目標は約5,700人で、1年間で約900人(+19.1%)の純増を見込んでいる。コンサルタント数と売上の連動FY2026の売上予想1,430億円をコンサルタント数5,700人で割ると、1人あたり年間売上は約2,509万円。FY2025の約2,426万円から約3%の上昇だ。FY2025の決算発表でも「コンサルタント一人当たり売上も計画を約3%上振れた」と、計画に対して1人あたり売上が上振れたことが報告されている。人数の増加だけでなく、1人あたりの生産性向上も成長の一因となっている。この「採用=成長」の構造は、コンサルティング業固有の管理会計だ。製造業であれば成長には工場の増設、不動産業であれば土地の仕入れ、小売業であれば店舗の出店が必要になる。いずれも大きな設備投資を伴う。コンサルティング業では、人を採用し、育成し、案件にアサインするだけで売上が増える。設備投資がほぼ不要なため、成長に必要な資本が圧倒的に小さい。この資本効率の高さは、PLの構造から必然的に導かれる。工場を持つ企業は減価償却費がPLの固定費として重くのしかかる。不動産業は棚卸資産(在庫としての土地・建物)が巨額になる。ベイカレントのバランスシートには工場も在庫もなく、主な資産は現預金と売掛金だ。PLが「人」だけで構成されているということは、バランスシートも軽く、成長に必要な追加投資が小さいことを意味する。ただし、このモデルには「人材の質」というリスクがある。急速に人数を増やせば、1人あたりの質が低下し、稼働率や単価が下がるリスクがある。日経の報道によれば同社は「積極的な採用と人材育成の強化を継続」しており、量と質のバランスが今後の成長持続性を左右すると考えられる。参照consul.global「ベイカレント 2025年2月期決算発表」:https://consul.global/news/news32452/日経「ベイカレント、3〜8月最高益」:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC152DO0V11C25A0000000/まとめ ─ 「人」だけで構成されるPLの管理会計管理会計とは、PLを構成する「変数」を特定し、その変数を最適化する仕組みを設計する技術だ。ベイカレントのPLは「人数×稼働率×単価」の3変数で構成されている。ワンプール制で稼働率を最大化し、営業・コンサル分離で案件獲得とデリバリーの両方の効率を上げ、積極的な採用で人数を増やす。3つの変数それぞれに対して、明確な仕組みが対応している。これまでのシリーズでは、ZARAの「速さ」、ユニクロの「規模」、任天堂の「プラットフォーム」など、PLのドライバーは多様だった。ベイカレントのPLドライバーは「人」だけだ。工場も在庫も不動産も持たず、人的資本の稼働率と単価だけで営業利益率36.7%を実現している。最もシンプルで、最も人に依存するPL構造だと考えられる。免責事項本記事は、株式会社ベイカレント・コンサルティングの決算短信、公式WEBサイト、公開済み報道記事等の公開情報を基に、同社の経営管理の考え方を整理・考察したものです。記載内容は一般的な情報提供および学習の補助を目的としており、株式会社ベイカレント・コンサルティングまたはその関連会社による公式な見解・手続・社内文書を示すものではありません。正確性・完全性・最新性について保証するものではなく、本記事の情報に基づく意思決定・行動によって生じたいかなる損害についても責任を負いません。